クレデンシャルスタッフィングとは?被害事例・仕組み・企業の対策を徹底解説 | |
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作成日時 25/05/13 (09:10) | View 113 |
近年、企業のデジタルサービスを狙ったサイバー攻撃が高度化するなか、「クレデンシャルスタッフィング」と呼ばれる攻撃手法による被害が急増しています。
これは、過去に漏洩したID・パスワードのリストを使って、不正にログインを試みる攻撃であり、業界・業種問わずあらゆる企業にとって、日々の業務の根幹を脅かす深刻なリスクです。
特にBtoB領域においては、クライアント企業の機密情報や顧客データを管理・運用しているケースも多く、ひとたびアカウントが乗っ取られれば、その影響は自社にとどまらず、取引先や社会的信用の失墜にもつながりかねません。
本記事では、クレデンシャルスタッフィングの定義、仕組み、他の攻撃手法との違い、具体的な被害事例・そして実践的な対策方法まで実務に役立つ視点でわかりやすく解説します。
クレデンシャルスタッフィング(Credential Stuffing)とは、過去に漏洩したID(主にメールアドレス)とパスワードの組み合わせを利用して、他のサービスに不正ログインを試みるサイバー攻撃の手法です。被害者本人が自覚しにくく、企業側も通常のログインと区別がつきにくいため、発見が遅れやすく、気づいたときには甚大な被害が発生していることが多いという特徴があります。
この攻撃が成立する背景には、多くのユーザーが複数サービスで同じパスワードを使い回しているという事実があります。攻撃者は、過去に大規模に流出した認証情報(クレデンシャル)をリスト化し、自動化ツールを用いて複数のWebサービスに対してログインを試行します。これにより、短時間かつ効率的にアカウントへの不正アクセスを成功させるのです。
特に注目すべきは、この攻撃が高度な技術を必要とせず、かつコストも低いため、サイバー攻撃の入り口として使われやすい点です。ダークウェブなどでは、メールアドレスとパスワードのセットが数千円程度で売買されており、それを使えば誰でも簡単にクレデンシャルスタッフィングを実行できてしまいます。
また、攻撃対象は一般消費者向けサービスだけにとどまりません。BtoB企業にとっては、以下のようなアカウントが攻撃対象になります。
l 社員の業務用メールアカウント
l クラウドサービスの管理者アカウント
l 顧客ポータルやサポートサイトのログイン情報
l パートナー企業向けの管理画面
これらのアカウントが乗っ取られれば、顧客情報の流出、取引先への攻撃の足掛かり、内部ネットワークへの侵入など、さまざまなリスクが連鎖的に発生します。
したがって、クレデンシャルスタッフィングは単なるセキュリティ事故ではなく、企業の信頼性やビジネス継続に関わる深刻な経営課題であると認識すべきです。
クレデンシャルスタッフィングは、一見するとシンプルな攻撃に見えますが、その裏では自動化ツールやボットネットを駆使した巧妙な手口が展開されています。ここでは、攻撃者がどのようなステップを経てクレデンシャルスタッフィングを実行するのか、その典型的な流れを見ていきましょう。
攻撃の出発点は、過去に情報漏洩したID・パスワードのリストです。これらは、ダークウェブのマーケットプレイスやハッカー同士のコミュニティなどで入手可能で、価格も安価です。たとえば、「メールアドレス+パスワード」のセットが数千〜数万件単位で出回っており、入手は非常に容易です。
次に、攻撃者は対象とするWebサービスや企業システムを選定します。ここで重視されるのは、ログイン機能が存在し、かつID・パスワードだけで認証が完了するサービスです。選定が済むと、自動化ツールを用いてクレデンシャルの入力を大量に試行するための「設定ファイル(Config)」を作成します。
ツールを使って、入手した大量のクレデンシャルを標的のサービスに向けて自動入力していきます。この工程が「スタッフィング(詰め込む)」と呼ばれる所以です。ボットは1秒間に数十件〜数百件のリクエストを送ることが可能で、極めて短時間に広範囲な攻撃を仕掛けられます。
ログインに成功したアカウントは、「ヒット」としてリスト化されます。攻撃者はこれを以下のように悪用します。
l システム内部への侵入や情報窃取
l 金銭目的の不正操作(ポイント交換、購入など)
l 詐欺やなりすましへの利用
l 他の攻撃(フィッシングやマルウェア拡散)の踏み台
場合によっては、ヒットリストそのものが再びダークウェブ上で転売され、攻撃が連鎖的に拡大するリスクもあります。
クレデンシャルスタッフィングの厄介な点は、ログイン試行そのものが「正規のIDとパスワードによるアクセス」であるため、不正アクセスとして検知されにくい点です。さらに、IPアドレスの分散や人間らしい行動を模倣する「スローペース攻撃」などの技術により、WAFや一般的なログ分析では察知が困難になります。
クレデンシャルスタッフィングと混同されやすい攻撃手法に、「パスワードスプレー」と「ブルートフォース攻撃」があります。いずれもアカウントへの不正ログインを狙う点では共通していますが、アプローチやリスクの種類が大きく異なります。
以下では各攻撃の違いを見ていきましょう。
パスワードスプレー(Password Spraying)とは、少数の一般的なパスワードを、多数のユーザーアカウントに対して試す攻撃手法です。たとえば、「123456」や「password」などの初期設定や推測しやすいパスワードを、社員アカウント全体に向けて試行するようなケースがこれに該当します。
【主な特徴】
l IDの数が多く、パスワードの種類が少ない
l 一般的でよく使われるパスワードを中心に試す
l アカウントロックや不正検知を避けるために、少数回ずつゆっくり試行されることが多い
特徴 |
クレデンシャルスタッフィング |
パスワードスプレー |
使用する情報 |
流出済みのID+パスワードのセット |
よくあるパスワード+大量のID |
成功確率 |
パスワードの使いまわしがあれば高い |
単純パスワードの利用者がいれば成功 |
攻撃対象 |
主に個人・企業の特定のアカウント |
組織全体のログイン認証システム |
検知難易度 |
高い(正規認証に見える) |
中程度(パターン分析で検知可能) |
このように、パスワードスプレーは「推測型」、一方でクレデンシャルスタッフィングは「流用型」という違いがあります。
ブルートフォース攻撃(Brute Force Attack)は、あるアカウントに対して考え得るすべての文字列パターンを総当たりで試す攻撃手法です。パスワードの組み合わせを1つずつ機械的に試行していくため、古典的ながら今なお使用される方法です。
【主な特徴】
l 特定のアカウントを対象にする
l アルファベット、数字、記号を含むすべての組み合わせを総当たり
l パスワードが長く複雑であればあるほど突破が困難
特徴 |
クレデンシャルスタッフィング |
ブルートフォース攻撃 |
使用する情報 |
流出済みのID+パスワードのセット |
単一のアカウント |
成功確率 |
パスワードの使いまわしがあれば高い |
総当たりでパスワードを割り出す |
攻撃対象 |
主に個人・企業の特定のアカウント |
低〜中(設定による) |
検知難易度 |
高い(正規認証に見える) |
非常に時間がかかることも |
ブルートフォースは一見すると原始的ですが、ログイン制限の緩いシステムやIoT機器、古いCMSなどに対して依然として有効なケースもあります。
クレデンシャルスタッフィングは、単なるログイン試行にとどまらず、企業の信頼、業務、そして経営基盤に深刻な打撃を与えるサイバー攻撃です。ここでは、企業が実際に直面するおそれのある主な被害について、4つの観点から解説します。
最も直接的かつ初期段階で発生するのが、業務用アカウントの不正ログイン=乗っ取りです。乗っ取られたアカウントは以下のようなリスクを招きます。
l 社内ファイル共有への不正アクセス
l 顧客やパートナーとのやり取りの傍受
l 攻撃者によるなりすましメールの送信
特にMicrosoft 365やGoogle Workspaceなど、SaaSを活用している企業では、一つのIDで複数サービスへアクセスできるため、被害が一気に拡大するおそれがあります。
乗っ取られたアカウントが顧客向けポータルやサービスに使われていた場合、ユーザー情報の不正取得や詐欺行為の踏み台として利用されることがあります。これにより、以下のような被害を招きます。
・顧客の個人情報が漏洩する
・顧客に対してフィッシングメールが送信される
・被害に遭った顧客からの信頼を失う
特に、BtoBで「信頼」が契約継続やLTVに直結する業界では、1件のセキュリティ事故が複数の解約や取引停止に発展するリスクもあるため注意が必要です。
ログイン試行の段階であっても、大量のアクセスが短時間に集中することでシステムへの高負荷が発生し、正常なユーザーアクセスが妨げられることがあります。この場合、以下のような業務影響が生じる可能性があります。
・顧客がログインできなくなる
・管理者画面が応答しなくなる
・社内業務システムが停止する
クレデンシャルスタッフィングがDDoS攻撃の一種として使われることもあり、セキュリティと可用性の両面で損害が出るのが特徴です。
最終的に攻撃者の目的が達成されると、機密情報の窃取や外部流出が発生します。具体的には以下のような情報が狙われます。
・顧客名簿・契約内容・請求情報
・新製品・新サービスに関する企画資料
・役員・社員の個人情報や評価データ
さらに、これらの情報が漏洩した際には、個人情報保護法に基づく報告義務や監督機関による行政指導、損害賠償対応などの法的リスクにも直面します。加えて、SNSやニュースメディアで報じられることでブランド毀損や信頼低下のリスクも避けられません。
クレデンシャルスタッフィングは、外部からの侵入に見えて、正規のID・パスワードを使った内部侵入という性質を持つため、従来のセキュリティ対策だけでは防御が難しい攻撃です。そのため、企業としては「使われる前提」で対策を講じるという視点が求められます。
ここでは4つの観点から、有効な防御策を紹介します。
最も基本でありながら効果的な対策が、認証プロセスの強化です。とりわけ重要なのが、多要素認証(MFA)の導入とパスワードポリシーの見直しとなります。
多要素認証では、IDやパスワードに加えて、ワンタイムパスワードやスマートフォンアプリによる認証を組み合わせることで、認証情報が漏洩した場合でも第三者のログインを防ぐことができます。
また、パスワードポリシーの厳格化も重要です。推測されやすい単純なパスワードの使用を禁止し、定期的な変更を促すとともに、十分な長さと複雑さを持たせることで、攻撃者による突破の難易度を高められます。
認証を強化するだけでなく、異常なアクセスそのものを遮断するアクセス制御も有効です。
たとえば、特定の国や地域、インターネットサービスプロバイダー(ISP)からのアクセスをIPアドレス単位で制限すれば、明らかに不審な地域からの攻撃を防止できます。また、ログインの試行回数に制限をかけ、一定回数以上失敗した場合にはアカウントを一時的にロックしたり、CAPTCHAを表示させたりすれば、ボットによる自動化攻撃を防げます。
さらに、業務時間帯以外のアクセスを制限することで、深夜や休日など通常業務では考えにくい時間帯の不正ログインをブロックすることも効果的です。
AIやログ解析を活用したリアルタイムの異常検知も、今日では企業の標準的なセキュリティ機能の一部となりつつあります。
たとえば、ログイン頻度やアクセス元のIPアドレス、使用デバイスの変化など、通常の業務では起こりえない行動パターンを検出し、即時にアラートを発することで、異常なアクセスに早期対応できます。
また、ダークウェブ上に流出しているID・パスワード情報と自社の従業員アカウントとの突合を自動で行う監視システムを導入することで、漏洩リスクを早期に察知し、事前にパスワード変更を促すといった先手の対応も可能になります。
万が一アカウントが乗っ取られた場合でも、被害を最小限に抑える仕組みづくりが重要です。
まず、管理者アカウントと一般ユーザーアカウントを明確に分離し、万が一乗っ取られても全体の権限を奪われることを防げます。また、アクセス履歴や操作ログなどの監査記録を残すことで、問題発生時に迅速な原因特定や影響範囲の確認が可能となります。
さらに、継続的にダークウェブを監視し、社内外のメールアドレスやID情報が不正に売買されていないか確認するサービスの活用も、セキュリティの早期対応力を高める有効な手段です。
クレデンシャルスタッフィングは、単純な不正ログインに見えて、企業の信頼・顧客との関係・業務運営そのものを揺るがす重大なリスクを内包しています。特にBtoB企業にとっては、顧客情報や社内の知的資産が攻撃対象となるため、「防ぐ」だけでなく「侵入された前提」で備えることが現実的な戦略です。
これからの時代、サイバー攻撃は「あるかもしれないリスク」ではなく、「いつ起こるか分からない前提」として捉える必要があります。特にクラウド環境やSaaSの利用が当たり前になった今、IDとパスワードの管理は、もはやIT部門だけでなく経営課題として取り扱うべきです。
クレデンシャルスタッフィングの多くは、過去に漏洩したID・パスワードの再利用によって成立します。つまり、攻撃を未然に防ぐには、「自社の認証情報がすでに外部に流出していないか」を早期に把握することが鍵となります。
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